
■ 原書の情報
タイトル: ¿ Esta’lista la princesa ?
仮題:おひめさま、したくはできましたか?
発行年:2005年
出版社: アトランティダ社(Editorial Atlántida)
・ 2007年4月11日 アルゼンチン児童文学雑誌 『イマヒナリア(Imgaginaria)』 春の推薦図書
作者
文: グラシエラ・レプン(Graciela
Repún) / フロレンシア・エッセ( Florencia Esses)
絵: バレリア・シス(Valeria
Cis)
■ あらすじ
朝、おひめさまは目がさめると、お風呂に入り、髪の毛をとかし、ドレスをえらび、靴をはき、朝ごはんをたべ、冠をきめて…といったすべての支度をととのえなければなりません。けれど、おひめさまはじぶんでは何もしません。お城に仕える人々が、すべて身のまわりのお世話をしていきます。そのあいだ、おひめさまの表情はしずんだまま…。
おひめさまの支度が進んでいくにつれ、各ページの右側には聖歌隊の男性コーラスが本のタイトルと同じように「おひめさま、したくはできましたか?」と問いかけ、「まだ〜」という答えがくりかえされていきます。そのたびに聖歌隊と冠の数が増えていき、聖歌隊が10人になるとおひめさまのしたくが整うのです。そこで今度は、今までとちょっとちがった質問が投げかけられます。「でも、なぜ
おひめさまは、したくをするのでしょうか?」 次のページをめくると、だれもがその答えに笑みがこぼれるにちがいありません。その答えは…「もちろん、おひめさまじゃなくなるため!」だからです。
おひめさまが、おひめさまでなくなったとき、そこには階級も位も存在しません。ふつうの女の子となって、ようやく笑顔でみんな一緒に輪になりながら楽しくおどることができるのです。 (対象:小学校低学年から)
■ この絵本を読むときのワンポイントアドバイス
児童文学の紹介と情報サイト 『ふくろうのボーと本たち(EL
BUHO BOO y sus libros )』より要約
各々のページの絵をゆっくり見せてあげて下さい。絵には様々なアイテムが詳細に描かれています。それぞれ指で絵を示しながら名前を言ったり、どれが好きかなど話しあうとよいでしょう。
おひめさまだけでなく、いろいろなキャラクターが登場します。カエル、ネコ、イヌ、カメ、トリ、ネズミ、サカナ…それぞれ何をしているか一緒に絵を楽しみながら話しあってみましょう。
「おひめさま、したくはできましたか?」と問いかけると、「まだ〜」という答えがくりかえされていきます。ページをめくるごとに、子どもと一緒にくりかえしのやりとりを楽しんでください。
聖歌隊が「おひめさま、したくはできましたか?」と質問するたびに、その人数がひとりずつ増えていきます。ページを追うごとに、何人いるか子どもに数をかぞえさせながら一緒に楽しみましょう。
絵本には、かんむりの形をした「しおり」がついています。好きなページをたずねて、しおりをはさんでみてください。小さいころから、しおりをはさむ習慣を身につけさせましょう。
■ 書評
アルゼンチンの出版社エテルナ・カデンシア社2010年12月9日掲載の記事より
―なぜ おひめさまは、したくをするのでしょうか?―
単純な質問だけれど、女性がモノのように扱われる掟をきっと打ち破ってくれるでしょう
おひめさまでいるのも、なかなか大変です。それは貴族の爵位や位の授与に関することではありません。ティアラをつけたり、うやうやしくお辞儀をしたり、夜中の12時に階段でガラスの靴をなくしてしまうことでもありません。
おひめさまでいることは、つまり、それを態度で示すことなのです。
絵本『おひめさま、したくはできましたか?』では、作家グラシエラ・レプンとフロレンシア・エッセが、幼少期から必然となっている社会の掟を打ち破ります。おとぎ話には常にダークサイドが存在し、驚くべき発見があるものです。バラ色の人生など最終的にはありえない。もしそうなったら、私たちは人生の大切な部分を失いつつあるということなのですから。
朝になり、お城でおひめさまが目を覚まします。儀式的な現実の朝の始まりです。宮殿に仕えるたくさんの人々がおひめさまの支度をととのえていきます。バラの香りのお風呂、おいしそうなスイーツがたくさん用意された朝食…。なにより興味深いのは、ドレスと靴をえらぶ場面でしょう。
実際に姪っ子2人に読み聞かせてみたところ、おひめさまのドレスをえらぶシーンに「ふぅ〜」とため息がこぼれおちました。バレリア・シスのイラストは、詳細に描かれていてとても美しいのです。また、各ページの右側にいる男性コーラスが「おひめさま、したくはできましたか?」という質問に「まだ〜」という答えがくりかえされていくのですが、子どもたちはこのくりかえしが楽しくて仕方がないようです。
こうして長い時間をかけて、おひめさまのしたくがととのっていきます。
バービー人形のカラフルな世界が市場で明らかに人気が高いのは、女の子ならだれしもおひめさま願望があるからでしょう。時に、大人の女性ですらかわいらしいグッズや商品に魅せられて、ついおもちゃ屋に長居してしまったり、小さな子に付き添うという名目で、ファンタジー映画を一緒に楽しんだりしているものです。
さて、ついにおひめさまは支度が完了し、世話人たちの仕事も一段落、美しいおひめさまのできあがりです。すると今度は男性コーラス陣から、興味深い質問がされます。「でも、なぜ
おひめさまは、したくをするのでしょうか?」
姪っ子たちは、驚いた顔でしばらく黙ったまま考えていました。そこで、もう一度前のページをじっくり見せていくと、それぞれ自分たちなりの答えを出してくれました。おひめさまの態度や詳細なイラストの中には、さまざまな答えが隠されているようです。おひめさまは、みんな同じというわけではないようです。
なぜか、この本は私の心に深く残る一冊となりました。一方、子どもたちにとっても何か思うところがあったのでしょう。もう一度読んでほしいとお願いされ、再びくりかえしのやりとりを楽しみ、自分たちでも違うドレスや靴をえらび、おひめさまごっこをしました。そして本を読み終えると、今度は着ていた衣装を脱ぎすて、結っていた髪をほどき、外へ出てボール蹴りをし、芝生に寝転びました。
おひめさまでなくなることも、人生の一部なのです。 そこから、現実の理想の男性がいることを教えていく役割を、私たちは担っているのかもしれません。時に、その理想はあまりに具体的過ぎてしまうこともあるかもしれませんが、運よく本当に理想どおりの男性に出会えるかもしれないのです。
■ 作者について:
文:グラシエラ・ベアトリス・レプン(Graciela Beatriz Repún)
作家。アルゼンチンのブエノス・アイレス生まれ。児童書だけでなく、小説、脚本、伝記、詩なども手掛け、100冊以上の本が出版されており、ラテンアメリカだけなくヨーロッパ諸国でも刊行されている。
主な作品と受賞
『アルゼンチンの伝説(Leyendas Argentinas)』 2002年ホワイトレイブンズ選定
『海は人魚でいっぱい(El mar está lleno de sirenas)』2004年
『シラミにきをつけて―詩といっしょ―(Ojo al piojo con estas Coplas)』 2000年ファンタジー賞
詩の部門受賞
『シラミにきをつけて―なぞなぞと早口ことば―(Ojo al piojo con estas Adivinanzas y Trabalenguas)』2000年ファンタジー賞 詩の部門受賞
『その家のうしろにいるのはだれ?(¿Quién está detrás de esa casa?)』 2004年パリ国際児童文学研究センターよりオクタゴン賞受賞
文:フロレンシア・エッセ(Florencia Esses)
1973年、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれ。学校で読書推進担当として働く他、ブエノスアイレス市の様々なプログラムに参加する。作家グラシエラ・レプンの生徒として共同で『おひめさま、したくはできましたか?』の他、『王子さまはどこへいるの?』、『ちょっとまって!』の3作品も同様に共同で執筆を手掛ける。これ以外にも、なぞなぞや早口言葉の絵本等も多く手掛けている。
絵:バレリア・シス(Valeria Cis)
アルゼンチンのロサリオ生まれ。アクリル画を主体に身の回りにある日常を多く描いている。子ども向けの絵本を中心にアルゼンチンだけでなくアメリカやスペイン、イギリス、韓国などでも活躍している。(ホームページ:http://www.valeriacis.com/)
主なイラスト作品(いずれも未邦訳)
2004
『シャケと漁師マルティンの伝説(Leyenda del salmón y el martín pescador)』 Sudamericana社(アルゼンチン)
2005
『おひめさま、したくはできましたか?(¿Está lista la princesa?)』アトランティダ社
『ロベルタ えをかく(Roberta dibuja)』SM社 (アルゼンチン)
2006
『漁師ぺピン(Pepín
pescador)』Atlántida社(アルゼンチン)
『アフリカの王子(El
príncipe de África)』Palabra社 (スペイン)
『ウマワカの牛(La
vaca de Humahuaca)』Alfaguara社 (アルゼンチン)
『王子さま、どこへいくのですか?(¿A dónde va el príncipe?)』Atlántida社 (アルゼンチン)
『ちょっとまって!(Un ratito mas)』Atlántida社 (アルゼンチン)
『ベロニカがあみものをすると(Cuando Veronica teje)』Sudamericana社(アルゼンチン)
2007
『ママはまほうつかい(Mamá maga)』SM社
(アルゼンチン)
『僕は消防士(Yo soy un bombero)』Emecé社(アルゼンチン)
『ハチおとこ(The Beeman)』Barefoot
Books (アメリカ)
『3びきのゆうかんなアリ(Tres hormigas valientes)』Emecé社(アルゼンチン).
2008
『やさいをたべない10のいいわけ(Diez Excusas para no comer vegetales)』Sudamericana社(アルゼンチン)
『絵ふでと紙(Pincel y papel)』Abrancancha社(アルゼンチン)
2009
『ファナ、どこにいあるの?(Juana ¿donde estas?)』SM社(アルゼンチン)
『おとなになったら、なにになる?(What will I be when I grow up)』Harvest House. (アメリカ)
2010
『ふたつのペサハの物語(A tale of two seders)』Kar-Ben Publishing
社 (USA)
『アマゾンからのともだち(A friend from the Amazon)』Kyowon社(韓国)
■ 所感
おひめさま絵本の特集が組まれるほど、おひめさまの絵本は女の子に人気があります。でも、この絵本はおひめさま願望を満たしてくれる終わり方ではなく、「おひめさま」であることをやめた時にこそ本来の「自分」になるのだということを、言葉ではなくイラストの中から感じ取れる作品であるように思います。この絵本には、たくさんしかけが組み込まれていて、くりかえしのやりとりや数の変化、キャラクターの動作など子どもと一緒に楽しく遊びながら読みすすめることができるようになっています。
作家のグラシエラ・レプンは、あるインタビューで「お話を書くことは恋するようなものだ」と語っています。この絵本についても共同執筆したフロレンシアとの間で、絵で表現するために言葉をけずっていく作業で何度も話し合いを重ね、「作家でいるのも、簡単なことではない」と認めています。さらに、イラストレーターのバレリア・シスに、彼女が辟易するほど詳細にキャラクターの指示を出していったことや、特に、おひめさま以外の鳥、魚、カエル等12のキャラクターを指定し、何度もいったりきたりのやりとりをしながら、ようやく一つの作品に仕上げたことを述べています。一見、言葉が限りなく少ないシンプルな絵本に見えますが、そこにはベテランと新鋭の作家のやりとりや、作家とイラストレーターのやりとりなど、様々なぶつかり合いがあり、切磋琢磨しながら納得のいく作品を仕上げていったという経緯があるようです。それゆえに2005年の出版後も、2007年の推薦図書に選定されたり、2010年の出版社のブログ記事に掲載されたり等、長く愛される作品になっているのかもしれません。
おひめさまの支度がすべてととのい、くりかえしの遊びも終了になった時、「なぜ おひめさまは、したくをするのでしょうか?」といった質問の場面では、きっと子どもたちから様々な答えが出されるでしょう。「散歩にいくため」、「遊びにいくため」、「ダンスにいくため」、「お芝居にいくため」、「王子さまに出会うため」、「結婚するため」…。けれど「おひめさまじゃなくなったとき」こそ、満面の笑顔でうれしそうに遊ぶ本当のおひめさまの姿になれるのだという結末に、読者はだれもが納得するに違いありません。そこには階級は存在しません。みんなが輪になって(動物もいっしょに)楽しそうにあそぶ最後のページが何より楽しい結末になっています。
■ 試訳
おひめさま、おはようございます。
もう、あさなの?まだ、ねむいのに…。
おひめさま、すばらしいあさですよ!
さあ、おきるじかんです。
おひめさま、したくはできましたか?
まだ〜!
すみれのかおりのおふろはいかが?
ジャスミン?それとも、バラがおすきですか?
おひめさま、したくはできましたか?
まだ〜!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さあ、できた!
おひめさま、したくがととのいました!
でも、なぜ おひめさまは、したくをするのでしょうか?<











